main

in other words

セイヤと二人で出かけた街中で、ふと聞こえてきた歌。
たったそれだけだ。特に思い入れがあったわけでもない。
それでもなんとなく、足が止まってしまった。
「この曲、聞いたことあるかも」
「ん?」
「確か、おばあちゃんが昔聞いてたような」
「ああ、随分古い歌だからな」
セイヤはいつもこうだ。
古い歌や映画でも、まるでよく知っているように、懐かしむように話す。
そんな奇癖にももう慣れるくらいには一緒にいるつもりだ。
少しだけ聞いて、また歩き始める。
隣にいるセイヤも、同じように歩き出した。
「子どもの頃は歌詞の意味がよくわからなかったけど、恋の歌だったんだね」
「I love you って言ってるだろ。何だと思ったんだ」
「月の話をしてるなあと思ったら、唐突に告白するなあって」
あんたらしい、とセイヤは小さく笑う。
私らしい、なんて失礼なことを言う。
子どもの頃の話だ。
今はもう、これが恋の歌だとちゃんとわかる。
「恋の歌だけじゃない。当時は有人月面着陸計画が進行中で、そのテーマ曲にも使われた。実際、初めての月面にはこの歌のレコードも持っていったそうだ」
「レコードって……そんなに昔から人は空に憧れてたんだね」
「その後はアニメの主題歌にもなったな」
相変わらず変に博識だ。
不思議な人だ、といつも思う。
鼻歌でさっき聞いた歌をなんとなく口ずさむ。
恋の歌だ、とわかりはしたが、歌詞はよく知らないままだ。
「簡単なことを言うためだけに、詩人は多くの言葉を使う」
「なに?」
「あなたのために歌を書きました。あなたがちゃんと理解できるように、ちゃんと説明してあげる。……イントロにそういう詞がある」
「それで書いた詩が、月に行きたいとか、他の星の春を見たいとか、そういうこと?」
ああ、とセイヤは呟いた。
それがどうして『好き』になるのかはやっぱりわからなかったが、好きだと素直に言い難い気持ちならわかってしまう。
最近わかるようになってしまった。
時々遠くを見つめる横顔に苛立つのも。
「あんたなら何て言う?」
「何、って?」
「『言い換えるなら』」
思わず、唸るような声が出てしまう。
言い換えるなら。私なら何て言うのだろう。
何と言ったら伝わるのだろう。
「……次までに考えておくよ。宿題にさせて」
「ああ。楽しみにしてる」
セイヤは表情は少ないながらも、本当に楽しそうに笑った。
その笑顔も憎たらしくて、隣を歩くセイヤの手の甲を少し抓った。

Category: