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How old

「シンって何歳なの?」
目の前で堂々と銃の手入れをする男にそう話しかければ、彼は僅かに顔を上げ、そして片眉だけを動かした。
「何歳だと思う?」
「え……何なの、そのめんどくさい返し……」
少なく見積もっても自分より歳上だろう。
もっと言うと、レイよりも歳上に見える。
声も態度も落ち着いているし、30は越えていそうだ。35くらいだろうか。
「ボスは28歳だよ」
「え!?」
カゲトに横からそう言われ、思わず声を上げてしまう。
「28!?」
「ああ、そうだが?」
「レイのひとつ上!?」
その言葉にぴくりと反応し、完全に顔を上げてじっとこちらを見つめる。
怒っているような、そうでもないような、複雑な表情をしていた。
「レイ……ああ、確かAksoの心臓外科医だったな。お前の主治医だったか」
当然のように調べられていることには今更驚かない。
ましてやレイもそれなりに有名人なのだから。
「ただの主治医を随分親密に呼ぶんだな」
「うん、まあ……」
が、幼馴染だというところまでは知られていないようだ。
別に、知られていたから何だという話でもあるが。
「主治医と患者以上の関係だったり!?」
今度は小指を立てたアキラに言われ、そんなんじゃないから、と一蹴する。
シンはなおも私をじっと見つめてきて、いい加減居心地が悪くなってくる。
そのうち、鼻を鳴らして揶揄うように口を開いた。
「……成程、もう少し歳上だと思ったか」
「いや、別に……」
「35くらいだと思ったか」
「ちょ、心を読まないで!」
「そんなに老けて見られてたとはな。悲しいぜ」
シンは言いながら傍らに銃を置き、こちらにゆっくりと近付いてくる。
さながら死刑執行を待つ気分だった。
目の前まで来たかと思うと、指先で顎を持ち上げられた。
「老けてるとかじゃなくって! シンは私の知ってる28歳と比べて落ち着いてるなって思っただけ!」
「ま、そうだろうな。で、お前は俺が35でも相手をしてくれると?」
「相手って、何の……?」
アキラとカゲトが、こわーい、とわざとらしい悲鳴を上げてついイラッとする。
シンは相変わらずニヤニヤしながらこちらを見下ろしていた。
「つまり、20そこそこのお嬢さんは、35のオッサン相手でも恋愛してくれるか、ってことだ」
「恋愛するのに年齢は関係ないんじゃない? 私だったら、別にシンが何歳でも」
そこまで言って、ハッと口を噤む。
シンが上機嫌なのが目に見えてわかり、アキラとカゲトは茶化すように声を上げている。
「……もう、うるさい! 恋愛に年齢は関係ないと思うけど、私はあなたが何歳でも、好きになるなんてありえないから!」
「それは残念だ」
ようやく顎から手を離してくれた。
かと思えば、髪に手を滑らせて、その一束を掬って恭しく口づける。
その手から逃れるように慌てて踵を返し、乱暴に部屋を後にした。
扉の向こうから笑い声が聞こえてきて、顔が熱くなる。
別に、何歳だって関係ない。
シンがもっとずっと歳上でも、あるいは歳下だったとしても、きっと私は彼に敵わないのだから。

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