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誘惑

七人全員揃ってのオフ、というのは年に一度あるかないかくらいの頻度だった。
その全員でのオフを、七人揃って過ごすというのは今までに一度もなかった。
毎日寮で顔を合わせているし、仕事でも嫌というほど一緒なのだ。
だがその日、七人で一緒に過ごすことになったきっかけは、陸の無邪気な一言だった。

「オレ、カラオケって行ったことないんですよね」

その一言で六人の男を動かせるのだから、陸はなかなかに大物だろう。
斯くして、七人はカラオケに行くことになった。

いざ来てみれば、曲を入れる順番も歌う曲もバラバラで、まさにカオスと化していた。
一時間ほどが経過した時、それは突然訪れた。
画面に、『誘惑』の二文字が現れたのである。
ドラムとギターのイントロが流れ、年長者三人は完全に面食らってしまった。
「すげー懐かしいな! 誰が入れたんだ?」
「世代的に、俺とミツでもギリギリだろ?」
「僕はこのバンド好きだから、歌えますけど……」
「じゃ、壮五が?」
「いえ、僕じゃ」
壮五の横から伸ばされた腕が、三月に差し出されたマイクを受け取る。
「俺」
この場で最年少の環が、マイクを持ち上げる。
歌えるのか、というかこの歌が発売された時生まれてないんじゃないか、という壮五の心配は、歌い出しで吹き飛んだ。
抱かれたい男五位は伊達じゃない、とでも言うべきか。
意図的なのか、あるいは直感的にそうしたのか、おそらく後者だろうが、枯らした声が艶かしくて、普段からは想像もつかないほど流暢な英語がまた妖しい。
歌の終わり際、何かを訴えるように流し目で見られれば、もう駄目だった。平たく言えば、壮五は落ちた。
環のあまりにもな様子を直視できず、ついに顔を覆う。
環の方はといえば、それに慌てて、なんとか取り繕おうとしていた。
「どーした!? 俺がこれ歌うの、ダメだった!? 俺、なんか間違えてた!?」
「いや……ごめん、君は何も悪くないんだ……」
「じゃあなんで……」
「ソウ、惚れ直しちまったか?」
大和の軽口に、壮五は顔を覆ったまま小さく頷く。
なんだそんなことかと、環は胸を撫で下ろした。
そうとなれば環は得意げで、マイクを次の人に渡して、ここぞとばかりに壮五に寄りかかった。
「あの曲な、そーちゃんが好きっつってたから」
そういえば先日、往年のヒット曲を流す番組があった。
たまたまその番組を見ていた壮五が、小さくこの鼻歌を歌っていたのをしっかり聞かれていたらしい。
ぽつりと、かっこいいな、と呟いたことも。
「だから、覚えたんだよ。俺、かっこよかった?」
顔を覆う手の隙間から、小さく、うん、と声が聞こえた。
隠しきれていない耳が真っ赤で、ついその顔を暴いてみたくなる。
そう促して手をどけさせれば、顔を赤くしながらも嬉しそうに笑っていた。
「かっこよかったよ」
その顔を見て、環もまた、満足そうに笑った。

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