秋の夜の夢
彼は優しく、そして脆い。
少なくとも、俺はそう思う。
同じく子飼いの二人には、彼はどこか冷めたように見えるようだが。
天下人となった主君が崩御されたあの日、彼はひっそりと泣いた。
偶然、俺だけが見てしまった。
声を殺して、肩も震わせず、ほんの少しだけ。
きっと子飼いの二人には、距離が近すぎて見せられない姿なのだろう。
今までずっと、彼はあの二人の前では強くあり続けたのだ。
今更弱いところなんて見せられない。
ならばせめて、俺の前でだけは弱いところを見せればいい。
そう言うと彼は、もう泣くのはこれきりだ、世話をかけた、と目の周りと頬を赤くしながら言った。
泣くほどつらいことなどこれきりでいい。けれど、それ以外のことも。
つらいことがあるなら、俺には見せればいい。
八つ当たりで気が紛れるのなら、それもすればいい。
俺は彼の敵にはならない。絶対に。
どうやら俺は、思いの外彼が気に入ったらしい。
流れを失ってなお、懸命に抗うその姿が。
大軍を率いて、皆を叱咤し、鼓舞し続ける。
だが時折、その重圧に耐えきれずに、あるいはもっと他の要因もあってか、俺の影に隠れてひっそりと泣く。
そんな彼が、たまらなく美しく、愛しいと思う。
だからどうか、頼む。
彼を『武士』でいさせてはくれないか。
そう思って見上げると、かつての友は俺を見下ろしながら、今にも泣きだしそうな顔をしていた。
その顔が、似ていると思った。彼もよくそんな顔をする。
俺が死んだと知ったら、きっと彼は揺れるだろう。
夢さえ見失って、俺の仇討ちなど言い出しかねない。
だから彼は、大将の器ではないというのに。
そんなところまで愛しいと思うのだから、俺もかなりの重症のようだった。
もし彼が道に迷っているのなら、道を示してほしい。
きっと、彼も死ぬ。
だが死ぬなら、夢を追う中で死んだ方がいい。
最後まで、彼には『武士』であってほしい。
そう心に思いながら、俺は自らに刀を突き刺した。