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左近の花

曼珠沙華

「三成様。俺が花だったら何だと思います」
そう聞くと、三成様はあからさまに嫌な顔をして、眉間に深く皺を刻んだ。
くだらん、とか知るか、とかそういう答えが返ってくるのだろうと身構える。
三成様は深くため息をつくと、手にした書簡を膝の上に置いた。
「曼珠沙華だ」
答えが返ってきたことに驚く。内容はともかくとして。
こう見えても、今日は機嫌がいいのだろうか。
「え、なんでですか」
機嫌がいいついでに、もう少し構ってもらおうと、一歩踏み出す。
三成様は書簡に目を戻しかけたが、俺が妨害する気だとわかったのか、もうやらないとでも言うように、丸めて脇に置いた。
「貴様の髪は赤いだろう」
「え? まあ、そうっすね」
「そこの風切羽のような毛もそう見える」
三成様は俺の頭を指差した。
確かに、これは風切羽にも見えなくはない……だろうか?
ましてや曼珠沙華になど見えるだろうか?
「それに、刑部は曼珠沙華は好きだと言っていた」
「刑部さんが?」
あの人は、花が嫌いだと言っていた。
強く、それでいて美しく咲き誇る花が、何のあてつけかと思うのだと言う。
強く美しいものは三成ただ一人だけで十分よ、とも言っていたがおそらくそっちが本心だろう。
あの人にとって三成様は絶対なのだから。
その刑部さんが、唯一好きだと言った花らしい。
「葉をつけないのが好いらしい。白だとなお好いと言っていたが、赤も嫌いではないと」
あの人の言いたいこともわかる。
取り巻きをつけず、花だけで真っ直ぐ立つ姿は、どことなく目の前の主君を彷彿とさせた。
白だと好い、というのもそういうことだろう。
「俺も、曼珠沙華好きっすよ」
「……そうか」
三成様は花になど興味はないだろうが、刑部さんと俺が好きだと言った花なら、嫌いではないのだろう。
「三成様。俺が死んだら、俺の体からいっぱい曼珠沙華咲かせますからね。真っ赤な血の色の曼珠沙華」
「……左近」
三成様は何か言いたげに口を開いたが、すぐにいつもの真一文字に戻った。
脇に丸めた書簡を手に取って、広げる。
「くだらんことを言うな。私より先に死ぬことは許可しない」
「けど俺、三成様が死ぬの嫌なんですけど」
ならば簡単だと、彼は鼻を鳴らした。
死ななければいい。戦に勝って、生き続ければいい。
簡単で単純な、だが一番難しい答え。
それでも三成様がそれを望むなら、俺はそれを全力で叶えようと思う。
俺は三成様の為に生きる。

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