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なんてあさましい

勝ったのだ。
目の前に横たわるこの男が、何よりの証だ。
それなのに、この心を埋め尽くす虚無は何だ。
何もないからこそ虚無なのか。
「家康……」
目の前に横たわる男の名前を呼んでも、男は何も答えない。
この男の肉を斬った感触が、手にはしっかりと残っていた。
違う。私がしたかったことは、こんなことではない。
目が熱くなる。止め処なく溢れる、これは何だ。
私はどうしたらいい。どうしたら家康は目を覚ます。
目を覚まして、再び刃を交えることができる。
泣き喚けばいいのか。平伏せばいいのか。謝ればいいのか。
どうしたら、この虚無は埋められる。
「……家、康っ……!」
どうして今になって、あの日々が思い出される。
秀吉様の下で、共に笑ったあの日々が。
あの眩しい日々に、どうしたら戻れる。
そうだ、私は戻りたかった。
ただ戻りたかっただけだった。
それなのに、もう戻ることはできない。どうしたって戻れない。
私は、どうしたらよかったんだ。
どうして、それでも朝は来る。
太陽は、たった今私が斬り殺したのではなかったのか。

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