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かわいいひと

「聞いてくださいよ慶次さん!」
左近は時折、俺のところへ来ては、『勝家』という子の話をする。
それはそれは嬉しそうに。かわいいかわいいと愛でながら。
「左近は、その勝家って子が好きなのかい?」
「好き……たぶん、そっすね」
「だろうね。『かわいい』なんて、愛してなきゃ出ない台詞だもんなあ」
あい?と左近は首を傾げる。
それと同時に真っ赤になった。
若いねえ、と笑うと更に赤くなる。
「『かわいい』って、どういう字を書くか知ってるかい?」
「それくらい、俺だって知ってますよ」
空中に指を滑らせて、文字を書く。
『可愛い』 うん、正解だ。
「合ってるよ。『愛す可し』って書くんだ」
「あいすべし、っすか?」
利とまつねえちゃんは、お互いを『かわいい』と言い合うことがある。
利は堂々と。まつねえちゃんは、利が寝てるときにこっそりと。
どうしてこっそり言うのかと尋ねたら、殿方に『かわいい』は失礼でしょう、と返された。
それでも、まつねえちゃんから見た利は『かわいい』らしい。
愛す可し。可愛い、愛しいと愛でながら。
「あんたはいつもその子をかわいいかわいいって言うから、愛してるんだなあって思ったよ」
「……はい!」
嬉しそうに笑いながら去っていく後ろ姿。
きっと愛しいあの子に会ったら、彼はまたかわいいかわいいと愛でるのだろう。
なあ、やっぱり、愛って重荷や弱点なんかじゃないんだよ。
遠い誰かにそう呟いて、なんとなく空を見上げた。

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