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あにいもうと

休みの日にどちらかの家で食事をしよう、という流れになるのはいつものことで、それが今日はたまたま私の家だっただけだ。
買ってきたものを机に並べ、ほかに二品くらいをレイが手際よく作り、それをダイニングテーブルに運ぶ最中のことだった。
横着をしてトレイを使わずに、食器の端に渡していたフォークが、ぽろりと床に落ちた。
「あ、フォークが」
とりあえず手に持った食事を机に置き、落ちたフォークを拾おうとテーブルの下にしゃがみ込む。
すぐ傍らにレイが近付いてくる気配がした。
「フォークは落ちるものだからな」
「それ、兄さんもよく言ってたけど、どういう意味?」
気にするな、とレイは小さく笑う。
すぐに目的のものを手にとって体を起こすと、後頭部にコツンとレイの手が当たった。
どうやらテーブルの端を掴んでいたらしい。
「レイ? なにしてるの?」
「別に」
「何もしないのにそんなところに立ってることある?」
わざわざしゃがみ込んでいる私に近付いてまで、フォークの冗談を言いに来ただけとも思えない。
「マヒルの真似をしただけだ」
「兄さんの?」
意味がわからずにいると、レイはそこから離れていった。
そういえば兄さんも、私がテーブルの下に潜り込んでいると、よく傍らに立っていた。
あるいは、横の席からわざわざ手を伸ばしてきたりしていた。
そして今のレイ同様、何度かそんな兄さんの手に頭をぶつけたのを思い出した。
「確かに兄さんもそんなことをよくやってたけど、どうしてなの?」
レイはそれ以上何も言わず、穏やかに笑うだけだった。

後日、霊空で何かの拍子に家族の話になり、そういえば、とモモコにその話を振る。
レイということは伏せて、あくまで兄さんの話としてだ。
するとモモコは、目を輝かせた。
「お兄さん、優しいね」
「優しい?」
「だって、あなたの頭がテーブルに当たらないように守ってくれたんじゃない?」
言われてみればそうだ。
あのまま勢いよく頭を上げていたら私はテーブルに頭を強打していただろうし、テーブルの上の食事も無事ではなかったかもしれない。
幼い頃なら痛みのあまり泣いていたかも。
私に悟られないように、ずっとそんな状況から守ってきてくれていたのだ。
兄さんも、レイも。
そう思うと急にどうしようもなく嬉しくなって、またレイを食事に誘おうと思いついた。
今度は、私が奢ってあげてもいい。

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